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2013年9月11日 (水)

スウェーデン日記10 オーディンの蜜酒を飲む Oðin Miöd

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この地でどうしても立ち寄りたい場所があった。レストラン「オーディン・ボルグ Odinsborg 」。ここで、オーディンの蜜酒【
Oðin Miöd】が飲めるというのだ。北欧神話に登場する魔法のお酒である。ひと口飲めば、予言の力と、詩人としての才能が得られるという知恵の酒。北欧の最高神であり、知識と詩の神でもあるオーディンがさらなる力を求めて、巨人から盗み取ったいわくつきの蜜酒である。

それにしても、神話に出てくるお酒が飲めるとは一体どういうことだろうか。蜜酒のことは、今回の旅行でコーディネイトをしてくださったツムラーレのS.Nさんが教えてくださった。今から20年以上前、北欧の歴史や文学を勉強していたNさんは大学の恩師、岡崎晋先生に連れられて行ったと言う。蜜酒はヴァイキングの兜(かぶと)の角そっくりの形をした器に入ってくるため、普通のグラスのように立てることができないから、飲み干すまでは器を手放せないのだと笑いながら教えてくれた。岡崎先生はヴァイキング、ルーン文字についても詳しく、「生きていらしたら、杉原さんとは話が尽きないだろうね、きっと喜ばれただろうな」と残念そうだった。私のほうこそ、自分のテーマと共通する研究をしていらした先人とお目にかかれなかったことは悔しい思いである。

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少々話がそれたが、神話の中でしか知り得なかった蜜酒が飲める「オーディン・ボルグ」は手前の墳墓のちょうど裏辺りにあった。とても可愛らしい、木のお店だった。
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ヴァイキングの荒々しいイメージは全くなく、どちらかといえばメルヘンを感じさせる、山小屋風の家だ。スウェーデン国旗がはためき、中に入るとヴァイキングの男の子が迎えてくれた。
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窓際に二人掛けのテーブル、奥には白いイスとテーブルが並び、優しい雰囲気だ。
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いちばん奥がレジになっており、さまざまな種類のサンドイッチが並んでいた。トマトサンド、シュリンプサンド、チーズサンド等々。お姉さんに「蜜酒が飲みたい」と言うと、「ケースから自分で出して」と言われる。彼女が指さしたほうを見ると、瓶に入った蜜酒【
Miöd
ミョード】が保冷ケースに並んでいた。ビールみたいだなと思いながらレジに持っていき、何か温かい物が食べたいが何かあるか? と聞いてみた。ハンバーガーが数種、ステーキ・プレート、ラザニア……。黒板に手描きされたメニューを見ながら説明してもらう。値段をチェックして、手頃なラザニアを注文する。グラスはいる? と聞かれたのでYesと答え、蜜酒の瓶を持って、テーブルについた。私以外には家族連れがちらほらいるくらいで、どこに座ってもいいようだったので、可愛い花が飾られた窓際の席を選んだ。ここからなら、緑が広がる風景も見えた。

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いよいよ“オーディンの蜜酒”である。ヴァイキングの角で飲むわけではないらしい。テーブルに置けないから飲み干すまで手放せないという蜜酒の飲み方を楽しみにしていたのだが、まあよい。この目の前にある瓶の中には、あのオーディンの蜜酒が入っているのだ。

北欧神話の中で、オーディンが用意周到に計画し、女を騙して手に入れた、知恵と魔法の蜜酒。この蜜酒は文字のとおりに単純にハチミツと酒でできているわけではない。何でできているかというと、主原料は神々の唾(つば)である。この唾を入れた壺に神々が命を吹き込むと賢者が現れる。が、小人が惨殺。賢者の体から流れ出た血液にハチミツを混ぜ合わせ、魔法の蜜酒が完成した。こんな短い説明ではわかりづらいだろうが、つまり、オーディンの蜜酒の原料は「唾」と「血液」と「ハチミツ」である。

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どんな味なのだろう? 蜜酒【
Miödミョード】をグラスに注ぐと、クリーム色の液体で少しとろみがあるようだ。ひと口飲んでみた。ほんのりとした甘みが口に広がるが、少し苦みがあり、独特の風味がのどに注がれる。この味は何かに似ている。フルーツ牛乳、いや、ヤクルトか、どこかで飲んだことのあるような味なのだが思い出せない。かなりアルコール度数は高そうだ。感覚としては日本のにごり酒の洋風といった味わいがある。

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Miödミョード】を味わううちにラザニアが運ばれてきた。大きい! 高さ10㎝はあろうかというビッグなラザニアだ。サラダもたっぷりあり、食べきれるか不安になる。ひと口食べて不安は吹き飛んだ。美味しい! 今まで日本で食べてきたラザニアは何だったのか?と思うほどだ。とにかくコクがある。なめらかな触感のパスタに濃厚なソースとチーズがからまって、口の中がとろとろと溶けていきそうだ。食べ終わるのがもったいない。【Miödミョード】は徐々に濃くなっていく気がする。どうやら最初によく振ってから飲んだほうがよかったようだ。食べ終わった後も私はしばらくそこで過ごしていた。レストランは家族連れが去り、店員の姿も見えなくなった。

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とても静かだ。頬杖をついて、窓の外を眺める。アルコールがまわってほんのり心地よく、ラザニアを堪能し、窓の外にはガムラ・ウプサラの緑ゆたかな風景。たった一人でこんなところまで、神話をこの身に感じたいためだけに来てしまった……と自分の無謀さがおかしくなる。静かに静かに過ぎていくこの時間はやがていつまでも褪せない、かけがえのない思い出に変わるだろうと感じた。

夕暮れが空の色を変えていく。青が少しずつ濃くなっていき、雲の色も鈍い銀色がかったきた。遠い神話の世界のものでしかなかったオーディンの蜜酒を体に満たして、そろそろ帰路につくことにしよう。


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★レストラン「オーディン・ボルグOdinsborg」の行き方
 
ガムラ・ウプサラ博物館から教会に向かう途中の小道を右手に入る。室内も素敵だけれど、外で風に吹かれながら過ごすのもいい。帰り際、おばあさん二人が外の席でお茶していらっしゃる様子があまりに気持ちよさそうで……。
Odinsborg Restaurant & Café
月~金10001600 土・日10001800 無休(20137月現在)
 
http://www.odinsborg.nu/

2013.7.2

 

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