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2013年9月10日 (火)

スウェーデン日記9 宇宙樹ユグドラシルと出会う Ash-tree Yggdrasil

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「天と地とを貫く大きな一本の樹木がこの宇宙を支えている」

木=TREEが根幹にある世界観は北欧神話独特のものであろう。木とは宇宙樹ユグドラシルことだ。

思うところあって、木の神話や伝説を調べ始めて何年が経ったろう。もともと木に心惹かれてはいたが、一人で日本の巨樹やご神木を巡るようになり、いつの間にか、世界のご神木についても知りたくなった。

つねに木は、私に、語りかけてくれた。人生の重要な場面場面で、木はささやきかけ、私はその言の葉に勇気を得て、生き続けてきたように思う。時に励まし、時に叱咤し、時に慰めてくれた。

夢中で木との逢瀬を繰り返すうちに、「他の人はどうなのだろう?」と思うようになった。つまり、他の人間も私の状況のように木が語りかけてくれ、木との対話によって救いを得る、そんなことがあり得たのだろうか? 素朴な疑問が私を“木にまつわる神秘の研究”へと導いていった。

聖書、仏典、神話、民話、伝承など、ありとあらゆる文献を読んでいった。すると、あるわあるわ、あたりまえのように、“木と人間とが交流する事例”が世界各地に豊富にあった。それは神話や伝説という形となって、現実とは思えない例も多々あったが、民間伝承として実際に言い伝えられているものもあった。木が話しかけてくる、木が危機を救う、時には、木と恋に落ちる、木の子どもを産む、木が母親の代わりにお乳を飲ませてくれる……など本当にあった話として伝えられていた。

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宇宙樹ユグドラシルの全体模型。


そして、出会ったのが北欧神話の「人間は木から生まれた」という創世神話である。男はトネリコの木から、女はニレから、3人の神さまが浜辺で拾った流木から作った。ニレから人間が生まれたという説はアイヌの言い伝えにもある。日本の神話と遠い北欧の神話との間に共通点があったことが興味深い。

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さて、前置きが長くなったが、ガムラ・ウプサラの歴史博物館である。入場料は60SEK。チケットさえ提示すれば、「一度出ても何度でも見ていいよ」と係員の男性が合図してくれた。1階が大まかな歴史の流れ。2階がこの地から出土した遺物の展示、歴史映像などであった。広々として清潔感があり、窓からはガムラ・ウプサラの緑の風景が見渡せる気持ちのいい空間だ。

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手前が私の大好きな狼フェンリル。

そこに、宇宙樹ユグドラシルはあった。正確にいえば、かなりデフォルメされた模型だが、北欧旅行の第二日目でユグドラシルに巡り合えるとは思えなかったので感激した。

北欧の聖なる宇宙樹―Tree of Life。他にも世界樹、生命の樹、中心樹など、さまざまな名前で呼ばれる宇宙を司る樹木。この宇宙樹の神秘を探りたくて、私は木の研究を続けているといってもいい。「宇宙樹思想」ともいうべき樹木崇拝は世界各地にある。身近なところではインドの菩提樹、ギリシャのオリーブ、東南アジアのガジュマルなども聖なる宇宙樹といえる。日本ではご神木となることの多いスギ、ケヤキ、クスノキなどがあてはまるだろう。

北欧では宇宙樹の樹種はトネリコとされている。その色鮮やかな模型では、スウェーデンの国樹でもあるトネリコにまつわる神々の物語が再現されていた。宇宙樹の枝先は天を貫き、根は大地に伸びている。

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雷神トールと宿命の戦いを繰り広げる大蛇ヨルムンガンド。

海を取り巻く大蛇ヨルムンガンド、太陽を飲み込む狼フェンリル、二匹の羊が引く車に乗った雷神トール、地獄の女神ヘル……影絵のようなシルエットで表された神様たちはみな生き生きとしていた。単なる物語ではなく、確かにこの世界に宇宙樹は立ち、神々は生きていたと、この地に生きる人々は信じていることが伝わってくる。

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八本足で天空も地獄も駆け巡る馬スプレイニル。

天井では最高神オーディンの愛馬、八本足のスプレイニルが輝いていた。有名な出土品であるトールの彫像もあった。
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ガムラ・ウプサラの全体像は木で彫られた立体模型で、とても美しかった。ミュージアムショップではルーン文字に関する商品がたくさん並んでいた。ルーン文字を織り込んだナプキン、ルーンのネックレス、ヴァイキングの人形etc.今回の旅行ではおそらくこの博物館が最も多かったように思う。ここまで来るのは大変だったが、本当に来てよかった。もう一度、三つの山まで登ってみようか。静かなこの大地で、いつまでも風に吹かれていたかった。

2013.7.2

 

 

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