2017.12.10被爆樹木を伝えることの難しさ
原爆を生きのびたヒロシマの木-「被爆樹木」について話す機会が増えた。しかし、話すたびに不安になる。伝わっているのだろうか。少しは興味をもっていただけただろうか。昨日もまた、不安でいっぱいのまま、家に戻ることになった。
今回は自分からのアプローチでなく、写真家の浅見俊哉さんからお誘いいただいた。アートを仕事にする人々の集まり<SMFアート井戸端会議>である。イベントのタイトルが「被爆樹木について 今について 未来について 語ろう」というものだった。だから、全く興味のない人はいないだろうし、「被爆樹木」について知りたいと思ってくださる方がいらっしゃるだろうと期待したが、どうもそうではないらしかった。
浅見さんは被爆樹木の「影」を撮り続けるアーティストだ。ヒロシマの影を残した人(広島平和資料館に影が残る石が展示されている)と重なり、心に響くテーマだと思う。何よりも写真が美しい。「原爆」からはかけ離れた世界にも感じる。しかし、彼の写真を見た人が、その美しいヤナギの葉に心惹かれ、じつはそれが“原爆投下後に再び芽吹き、今も生き続ける木”であると知ったとき、どう感じるのか? 焼け野原に芽生えたと感動するのか、被爆した木?とぎょっとするのか。「こわい」と言った人もいると聞いた。放射線の影響を考えての発言だろう。どんな感想にせよ、「原爆」に関心をもっていただくきっかけとして、すばらしい作品だと私は思う。だからこそ、今回「一緒にクロストークをしていただけませんか?」と依頼にすぐにOK のお返事をした。
「被爆樹木について 今について 未来について 語ろう」
日時:2017年12月10日(日)
場所:埼玉県立近代美術館 3階講座室
主催:SMFアート井戸端会議
トークでは、前半で私が「被爆樹とは何か?木のそばで何が起こったか」を被爆の特徴(ヤケド痕、ウロ等)がよくわかる木々を中心に紹介、後半では浅見さんが「アートとしての被爆樹木」について語られ、残りの時間で2人の対談という流れであった。
浅見さんとのお話はとてもおもしろかった。私自身、1人黙々と、被爆樹木を追い続ける取材のなかで感じていたことを、浅見さんも感じられていたことに、ホッとするような、勇気をいただくような気もした。
いちばんへこむ言葉として、被爆樹木を通して原爆を伝えることに対し、「軽い」「甘い」「真剣に考えていない」というご意見がある。浅見さんも個展の時などに同様のことを言われていたと知り、ああ、やはり同じような反応はあるのかと納得した。そういう心傷つく意見に対し、浅見さんがどう向き合っていったか、そんな話も聴くことができて、本当によかった。同じテーマをもつ人がいることの心強さを感じたクロストークであった。
一方で、参加者の方々の反応は今一つというか、あまり関心を持たれなかった印象があり、またもや、へこむ。「被爆樹木」を少しずつ紹介していく、私の話の展開がつまらなかったのかもしれないと反省しきりだったが、ひと晩経って思ったのは、根本的に参加者の方々は、浅見さんのアートとしての「被爆樹木」には関心があるが、原爆から蘇った木々―被爆樹木そのものには関心がないのではないか、という思いである。被爆樹木のそばで生きてこられた被爆者の話も少ししたが、重いと感じられたのかもしれない。また、私はアートの創り手ではない。表現の仕方は様々だと思うのだが、そのことも無関心の度合いを深めたようにも感じた。
それぞれの人にとって、“身近なこと”として、被爆樹木を考えていただけるように“伝える”ことは難しい。まあ、自分の力不足なのだが。
ただ、身近なこととして、と考えると、関心のない大人たちよりも、子どもたちのほうがはるかに、身近な存在として、戦争、原爆=核兵器をとらえているように感じている。今年、都内の小学校6年生に平和授業をする機会を得たとき、ひしひしと感じた。
「ボクたち、わたしたちの未来に、戦争が起きるかもしれない。核兵器が使われるかもしれない。ボクはもしかすると、戦争に行くことになるかもしれない」
と、漠然とした恐怖感をともなって、“身近なこと”として、感じているのではないだろろうか、と。被爆樹木の傷あとの写真を見せ、原爆について話しながら、そんな真剣さが伝わってきた。この子どもたちにこそ、伝えていきたいと思う。
1日を振り返って、さまざまなことを考えた。
今までも主催者に興味をもっていただいて講演を引き受けるが、現場でアウェイ感の強いことは多々ある。「興味なし、終わり」的な対応。興味がない人に知っていただく工夫をいつも考えているが、今年はへこむことも多く、講演のたびに反省、反省。
どんな立場にしろ、講演にいらしてくださった方々に、「ああ、今日は来てよかった」と思っていただける伝え方、話の展開をもう一度考えてみようと、新たな闘志が湧いてくる1日であった。
声をかけてくださった浅見さん、SMFアート井戸端会議のみなさま、貴重な機会をありがとうございました
※撮影:SMFアート井戸端会議(浅見さんfacebookより)
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